鍼灸と易経の関係について

鍼灸と易経の関係について

経は、紀元前三千年前の伝説の人物、伏義によってその原型が作られたといわれています。その後、周の文王、孔子などの聖人たちによってほぼ現在の形になったもので、歴史的にとても古いものです。

「易占い」というと胡散臭いもののように思われがちで、「当たるも八卦当たらぬも八卦」という言い方をみても、そこには何の根拠も信憑性もなく、迷信的な印象があると思います。

でも、この易経は、数千年の歴史を持つ古代中国の自然科学や哲学などの分野において、その形成の過程で、礎となる考え方をずっと提供しつづけてきたのです。けっして迷信や世迷言ではなく、ほぼすべての学問の基本であったのです。

古代の人たちは、最初のころ、ほんとうに最初のころ、ものごとを推し量る術(すべ)をもちませんでした。

それこそ、昼や夜、太陽や月、川や海、山や木、豊作と凶作、干ばつや洪水、そして男と女。これらの名称すらなかったころ、これらとどのように向き合ってそしてそれらがどのように推移していくのか、そして関係していってよいかをまったく知らなかったのです。

ですから、まず、新しいもの、新しいできごと、知らないものが出てきたとき、それが何であるか、そして、それらがどう変化していくかを知るための方法論を欲しました。

その方法論が「易経」なのだと、私は思っています。

(易経は、英語で、「The book of change」(変化の書)といいます)

 

の方法論とは、まず、ものごとを2つに分けることからはじめます。

それが「」と「」です。陰が極まれば陽に、陽が極まれば陰になる、暗くなるのは夜でそれは陰、明るい昼間は陽。昼は夜に、夜は昼に転じます。

空と大地がある。空は陽に属し、大地は陰に属します。

空にうかぶ丸いもの、昼の丸いものは陽、夜の丸いものは陰。

でも、2つだけだとあまりにもおおざっぱ。なのでもう一回分けて4つにしてみます。

寒い季節は冬、それが終わって綠が出てくると春、その後は暑い夏、そして実りの秋、これが四季。

これでもまだ少し足りないかもしれない。じゃあもう一回分けて8つにします。

易経では、天と地の間に、沢・火(太陽)・雷(木)・風・水(月)・山が存在している、と考えます。すべての自然現象がこの8つのどれかに分類される、という考え方です。

この天・沢・火・雷・風・水・山・地の8つを「八卦」といいます。ものごとをこのうちのひとつにあてはめて分類してしまおう、というものです(上の図にもあります)。

そして、その動きを知るには、あともうひとつ、「八卦」の上に八卦を積み重ねて、8×8=64とします。ものごとの推移を知るための分類としては、この64個(64種類)くらいがちょうどいい塩梅だったのでしょう。

そして、この64卦はつねに動いてます。一瞬たりとも止まらずに循環していくのです。


して、易経には、みっつの原則があります。

ひとつは「易簡」。ものごとを陰か陽のたった二つに分類してしまう、というとてもシンプルな考え方。シンプルであるからこそ数千年ものあいだ、ひとびとの間で伝えられてきたものであるというもので、そのシンプルさが原則である、というものです。

ふたつめは「不易」。

そのシンプルさ故に、この考え方は絶対に変えてはいけない、という原則。

最後に「変易」。

この原則は、ものごとは常に移り変わっていくものですよ、ということを告げています。これが実は一番大事。これが変化の書、と言われる所以です。


経は、単に占いのためだけの道具ではありません。

どんなに悪い状態であっても、それは次の瞬間には良くなって いるかもしれない(変易)、だからそのときのために今はじっと力を蓄えるとよいとか、どんなにうまくいっていて今は幸せの絶頂であっても、次の瞬間にはも う下り坂に なっているかもしれない、だから、自重して足元をよくみなさいとか。

ものごとに、ずっと不調もありませんし、ずっと好調というのもありません。

常に循環しているのです。なので、何事もやりすぎはよくない、中庸がよい。

これが、易の人生哲学です。

そして、その循環の兆候をとらえて準備・実行をアドバイスするのが易経の占いとしての使い方です。

古代中国のあらゆる学問が、易をベースにしている(と私は考えています)のは、なんとなくわかる気がしますね。


洋医学においても、もちろん、陰陽が基本ですから、易の思想を取り入れています。

それこそ、病はつねに動いていますから(変易)、その動向を診るのはとても重要です。

そして、病には必ず陰と陽があり、それらは表裏一体である、という考え方が東洋医学の思想です。

病の陰陽、症状の分類、症状の変化・推移が、易で見れるかどうかはまだ、私にはわかりません。

でも、古代の医聖たちは、易を身につけて自分のものとし、そして鍼・灸・湯液を手に、患者さんと向き合っていたことは恐らく間違いないでしょう。

私も、鍼灸の世界に入り、易の思想に触れたものとしては、医聖を目指して、日々研鑽してゆきたいものです。

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